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190820-22-24 エフゲニー・オネーギン@まつもと市民芸術館 その2 タチヤーナ編

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3公演コンプ無事達成💟行くまでが大変だったのよ編

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今回のキャストが発表された時、グレーミンのアレクサンダー・ヴィノグラドフは別として
とても楽しみにしていたのはタチアーナ役のアンナ・ネチャーエヴァ。
ネチャーエヴァは(*1)4年前(2015年)ベルギー・モネ劇場でのラフマニノフのオペラ3部作のうち、アレコとフランチェスカ・ダ・リミニの両作のヒロインとして出ていたのを映像で見た時に「彼女はいい!」と思ったのです。
ロシアの正統的ソプラノらしい、深くて陰影がある声で、ちょっと歌が粘っこくて。

*モネの「ラフマニノフ3部作」トレイラー。動きが極端に制限され、メイクもケッタイでほとんど演奏会形式みたいだけど、ネチャーエヴァの歌はいいのよ!!!

ネチャーエヴァはワシントンやボリショイ劇場でもタチアーナを歌っていて、そのクリップを観るとやはり彼女はいい!と益々楽しみが増すばかり。
こういうちょっと凝った人選、ほんと嬉しいです。流石ファビオ・ルイージ様だわ…と感激でした。

*これもカーセン演出、3月にUSデビューを果たしたネチャーエヴァの「手紙の場」

*5月にプレミエだったボリショイ劇場のクリップ(最後のシーン、タチアーナからのリベンジ💋有り💟)

そのネチャーエヴァ、最初の舞台裏からの姉妹二重唱で「おっ!」と惹きつけられ、舞台に出てきたらもう理想的なタチアーナ。
ちょっとマトリョシカ人形みたいな、カワキレイな人で、演技にわざとらしさがないし(オネーギンを一目見て本を落とすところとかもすごく自然)なんというのか「役が身についている」どころかタチヤーナがそのままそこにいる・・という感じ。

初日は「手紙の場」の直前の乳母とのやりとりのところで電源トラブルのために約20分間中断したんですが、ここで集中力が途切れないか心配だったのですが、タチヤーナがベッドに入ってもじもじしているところに乳母もベッドに入って彼女をぎゅっと抱きしめて・・一瞬何が起こったのか気がつかなかったんですが、トラブルさえ演技に変えてしまうプロの底力を観た気がしました。

「手紙の場」に入る前にネグリジェの胸元の飾り?ボタンをいじくり回す仕草もツボでした。

ルイージがこれでもか・・!とロマンティックの極みとも言えるようにテンポをたっぷり取った「手紙の場」は毎回聴き応えがありましたが、とりわけ2日目(22日)が一番良かったように思います。ロシアのソプラノらしい、情感豊かな声が上から下まで良く鳴ること。
METの2013年版と2017年版の映像で歌っていたネトレプコほどの破壊的な強さが必要なわけではない。2007年のカーセン演出のフレミングみたいな説明的な演技は要らない。

適切な声を持って、情感と演技が一体化してる彫りの深い表現力は得難いものだと思いました。

ときめき、とまどい、期待、畏敬、恐怖・・恋を知ったばかりの女性が味わう感情の全てが包括され、それが目に見えるかのような。理屈ではなく本能。
ルイージのたっぷりしたテンポに乗せて自在に歌う彼女をここ松本で3度聴けたことは本当に幸せでした。

*ゲネプロ時の「手紙の場」

https://www.facebook.com/iclassicjp/videos/709100822869212/

翌朝のすっとぼけたフリをしている乳母とのじれったい(笑)やり取りが好きなんですけど、ここが終わった後の短いオーケストレーション・・

タチアーナにとって、新しい人生の幕開けが始まる、新たな生命誕生のような期待に満ちたオケの響きには、毎回胸をギュンギュン鷲掴みされました。

オネーギンに拒絶され、モジモジと落ち葉を触ってやるせなさを表現し、その後オネーギンが(多分当時の礼儀として)タチヤーナの腕を取って退場する時のいたたまれなさ・・胸が痛み、彼女の置かれた状況に共感する人も多かったことでしょう。

2幕のオネーギンとのダンスシーンも忘れがたいです。あれも当時の礼儀としてオネーギンは儀礼的に踊っているんでしょうけど、衆人環視の中、羞恥と後悔に苛まれながらも気丈に振舞おうとする彼女の無機質な表情にも魅せられました。

そしてレンスキーとオネーギンの雲行きが怪しくなり、もはや決闘は避けられないのっぴきならない状況の中、レンスキーが「貴女の家で」と歌い始め、オネーギン、オリガ、ラーリナ夫人、タチアーナがそれぞれ独白しながらの重唱に繋がっていきますが、
このところで大体、劇場の字幕ではタチアーナの歌っている歌詞は
「エフゲニーが何を考えているのかわからない」の一行で済ませていると思いますが、
改めて対訳を確認してみると、

「ショックで この心にはできなくなっている
エフゲニーを理解することが 私を苦しめるの
私を嫉妬の苦悩が!
ああ、私の心は苦しみで張り裂けそう
まるで冷たい手が
この心臓を締めつけているみたいに
激しく痛むのです!」
「ああ 私は死んだの 死んだのよ!
私の心は告げている
あのひとのせいで死ぬなら幸せだと!
私は死ぬの 私は死ぬの 私の心は言ったわ
私には文句を言えない それはできないと!
ああ どうして文句なんか どうして文句なんか言えるの?
彼は 彼は私に幸せを与えてはくれないのだから!」
(対訳はオペラ対訳プロジェクト様より)
https://w.atwiki.jp/oper/pages/2741.html

と、ここでもまだ複雑な女心の心情を吐露していたと初めて気がつきました。まだまだ、うじうじと失恋を引きずっているのよねえ。

この重唱でも一番声が飛んでくるのがタチヤーナなので、ほんと切ない苦しみがビンビン伝わってきました・・

レンスキーが「ああオリガ、永遠にさようなら!」と出て行って、最後にオネーギンとタチアーナだけが舞台に残り、一瞬見つめ合い「なんて酷いことを・・!」と言わんばかりに一瞥して踵を返すところも惹きつけられました。

3幕。公爵夫人となったタチアーナ。

素敵な笑顔で優しくて包容力のあるグレーミン公爵とともに、字幕通りに「おっとりした魅力の美しい方」と讃えられながら凛とした表情で現れると、これはグレーミンやオネーギンでなくても、惚れるよねえ・・とうっとり。

(尤もこのシーンは双眼鏡でグレーミンとのソウルトークに心血を注いでいたので^^;他のキャストへの観察力が低下していたことは否めないですが、最終日は双眼鏡を忘れたので舞台全体を見ようと努力しましたの…)

「あなた、疲れましたわ」と震える胸の内を押し殺すのに精一杯のタチアーナ。「ああ、それは大変だ!マイハニー」と仕草で語るグレーミンに伴われて立ち去る姿も美しい。

そしてフィナーレのオネーギンとの応酬。前半の昔のオネーギンの仕打ちを責めるところの恨みがましさ、大西オネーギンもバキルチオネーギンも、どちらも真綿で首を絞められそうな苦痛に耐えかねたことでしょう^^;
思慕というコップの水がいっぱいいっぱいで今にも溢れそう、堕ちてしまいそう…でもダメ、私は人の妻です…と抑え切り、メロドラマになりそうな、すんでのところでバシッと拒否する。

最終日、彼女の目には本物の涙が浮かんでいたような気がしました。持てるものを全て出し切った感じで、カーテンコールでは感無量。
出てきた時にドレスに足が引っかかってつまずきそうになり、一瞬ひやっとしました。

カテコで思い出しましたが、歌手陣が全員舞台にあがった後で毎回彼女がルイージを迎えていたんですが、22日(2回目)はルイージとハグした時に勢い余ってルイージのメガネが吹っ飛ぶというハプニングも(笑)それだけノッていたんでしょうね。

ともあれ、私にとってアンナ・ネチャーエヴァは何から何まで理想的なタチアーナでした。
もっと若い(30代後半)くらいかと思っていたら、43歳でヴィノグラドフとは同世代。

こういう言い方が適切かどうかわからないですが、嘗てのガリーナ・ヴィシネフスカヤや1944年演出のボリショイでのリバイバル上演の映像で歌っていた方などの、正統的なタチアーナ歌いの系譜に連なる歌手だと思っています。

https://tower.jp/item/2822242/チャイコフスキー:歌劇≪エフゲニー・オネーギン≫

これまでロシア国内での活動が主だったとのことで、まだあまり国際的には知られていないネチャーエヴァですが、今後とも動向を追い続けていきたいし、また機会があれば是非来日して欲しいです。

ネチャーエヴァ・タチアーナのことだけで充分長くなってしまったので、オネーギン、グレーミンその他まだまだ喋りたいこと(色々あるのよ〜〜〜〜〜〜!)は別立てします。

(*1)この年はフランス語圏でのラフマニノフが何故か続いて、2月にはフランスのナンシーでもアレコとフランチェスカ〜のダブルビルを演り、そこで主役を歌ったのは今回グレーミンを歌ったアレクサンダー・ヴィノグラドフ。
これは現地で鑑賞したんですが、この時のヒロイン役のソプラノさんよりも彼女の方がうんと私好みで、この二人の共演なら、ナンシーでの上演ももっと感動的だっただろうと思ったのでした。
なので今回、二人が共演してくれて(それも大好きなオペラで、日本で!!!)本当に嬉しかったのです💟

3公演コンプ無事達成💟行くまでが大変だったのよ編

https://valencienne-tea.com/190820-22-24-onegin-matsumoto-001
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■チャイコフスキー:オペラ《エフゲニー・オネーギン》
2019年8月20日(火)開演 18:30、22日(木)開演 15:00、24日(土)開演 15:00(約3時間、休憩1回あり)
まつもと市民芸術館・主ホール

あわせて読みたい

●指揮:ファビオ・ルイージ
●演出:ロバート・カーセン

●出演
エフゲニー・オネーギン:レヴァント・バキルチ (20日、22日は大西宇宙)
タチヤーナ:アンナ・ネチャーエヴァ
レンスキー:パオロ・ファナーレ
オリガ:リンゼイ・アンマン
グレーミン公爵:アレクサンダー・ヴィノグラドフ
ラーリナ夫人:ドリス・ランプレヒト
フィリーピエヴナ:ラリッサ・ディアトコーヴァ
トリケ:キース・ジェイムソン
隊長、ザレツキー:デイヴィッド・ソアー

合唱:東京オペラシンガーズ
ダンサー:東京シティ・バレエ団
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ

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