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ベッリーニ《夢遊病の娘》METライブビューイング感想|ロランド・ビリャソン演出とロドルフォ伯爵アレクサンダー・ヴィノグラドフ

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ベッリーニ《夢遊病の娘》METライブビューイング感想|ロランド・ビリャソン演出とロドルフォ伯爵アレクサンダー・ヴィノグラドフ

※この感想記事はネタバレを含みます。これからMETライブビューイングをご覧になる方はご注意ください。

写真はMETライブビューイング公式サイトより

目次

ベルカント・オペラ苦手民が挑んだ《夢遊病の娘》

オペラ関係でお付き合いが長い方には周知の事実ですが、私はベルカント・オペラが苦手です。
最初のうちは「食わず嫌いなだけかもしれないわ」と思っていましたが、オペラ歴を重ねるうち、幾つか聴いてはみたものの。。。
日常的に聴く!聴きたいとは思えない。

筋書き重視の私にとって、荒唐無稽過ぎる物語性&音楽が単調に思えるのが理由です。

ベッリーニの《夢遊病の女》(「娘」ともいう、今回のMETの役は「娘」ですね)なんて、まさに「ザ・ベルカント」でっしょー!
推し様が出てなかったら、まず自分からは選ばない演目。それでも今回のライブビューイングにも2回、足を運びました。

今回のMETでの初日公演のラジオ放送の時には、AIに作らせた対訳と首っ引きで聴き、思ったよりもヴェルディみがあるというか、ヴェルディは確かにベッリーニのオーケストレーションからヒントを得ているんだなぁという感じを受け、少し「わかった」ような気がしていました。

しかしライブビューイングの初回(11月22日・MOVIX京都)は音楽が全然身体に馴染んで来ず…2回、行くだけ無駄かも(^^;;とも思ったんですが、
今回演出を手がけているかつての名テノール、ロランド・ビリャソンがインタビューで演出について話しているのを聞いた+実際に映像から受ける印象が好感触でして。

2回行って良かったです。作品について「わかった!」とは胸を張って言えませんが、初回でよく分からず、モヤモヤしていたところが2回目で解明できて、私なりの答えを得ることができました。満足しています。

ロランド・ビリャソン演出:閉塞的な村社会としての《夢遊病の娘》

*****以下、ネタバレ注意*****

ビリャソンは彼自身もおそらく、全盛期にはこの作品を「歌う側」として関わった時間も長かったと思います。その彼の手による演出は、彼なりのこの作品に対するアンチテーゼなのでは?と感じた次第です。

ベルカントオペラに精通している私のオペラ友の一人が、この作品を理解するのには時間がかかった、どのキャラクターにも感情移入しづらいし、筋立ても荒唐無稽で…と言ってた意味が、少しだけこの作品の表面を触った身としては本当によく理解できます。

ビリャソンはこの作品の舞台を「男性が支配的な、保守的で閉塞感のある村」に見立て、その象徴として合唱団演じる村人の動きを「肘を身体につけて」表現させています。これは非常に効果的だったと感じました。
お辞儀文化と極端に他人とは身体をくっつけない(握手すらしない)独特の抑制感が、感情表現において自由奔放なアミーナの浮き具合を際立たせているのが見て取れます。

また「当時【夢遊病】がまだしっかり解明されていなかったこともあり、科学と魔法の融合の物語としてのブームもあった」的なことを言ってたんですが、
・この作品は1831年
・夢遊病モノとして真っ先に思い浮かぶであろう児童文学の「ハイジ」は1880年
ということですから、それこそが19世紀だねえ…と納得。

エルヴィーノという難物キャラクターとカップルのすれ違い

恋人同士が晴れて結婚式をあげるのに、新郎の方はずっと仏頂面。若き日のホセ・カレーラスばりの可愛い面差しのシャビエール・アンドゥアーガ、歌も声も悪くないし、多分現在聴けるエルヴィーノとしては最上のレベルなんだろうけど、ほんっっと、笑わない。

若き日のカレーラを想起させる雰囲気のシャビエール・アンドゥアーガ

全幕を通して笑ったのは3回くらい?その中で強烈だった「笑い」は、裏切った(と妄信して)アミーナに前日はめてあげたばかりの「母の形見の指輪」を無理やり外して「それ見たことか!」的に指輪を掲げ、ニヤリとしたシーン。ゾッとしましたわ。。。

尤もご本人もインタビューで「エルヴィーノに感情移入することは難しい」と仰っているので、歌唱技術はもとより、役の造形という点でも難しいでしょうね。
現代の感覚だと、あんなわけのわからん思考回路の男は、普通に考えておかしすぎるよ。。。

そりゃ最後に、女ふたりから捨てられるのは当たり前でしょー!って、あのラストが多くの方々に受け入れられているのは納得。

アミーナの抑圧と「夢遊病」というファンタジー

結婚が決まったカレへの思いが溢れる(はみ出てるよ^^;)天真爛漫な新婦アミーナは、彼とくっつきたくて仕方ない。でも村の掟縛り?!でキスどころか、手を取り合うことさえままならない。(夢遊病状態の時にはエアーキス😘をなん度もしているので、実際にもしたかったんでしょうねぇ)

もとより「出自不明」の彼女は、この村の枠に収まり切れるとは思えない…その抑圧がストレスになり、夢遊病を引き起こした…というファンタジー感満載のヒロインを熱唱するネイディーン・シエラ。

ネイディーン・シエラ。この寝巻き(ネグリジェ)可愛い〜❤️と見惚れてました

ほのかに薄暗い響きを携えた圧倒的な声量で押せ押せの歌唱+若干多動気味とも言えるかのような、無邪気な動きと、いかにもアメリカンガール的な立ち居振る舞い(彼女は喜びを隠せないのね…😅)と、おそらく映像収録を意識した表情付けには、少々あざとく感じてしまうところもありました。分かり易いっちゃ、わかりやすいんだけどね。

多分アミーナは、最初に伯爵の部屋で見つかった時に、エルヴィーノが彼女を信じるどころか罵倒して婚約解消だ!と叫んだ時点で、彼への気持ちは決定的に離れたんだと思うのよ。
そもそも、お祝いのシーンでも、村の掟の枠にはまりきれないところが見え隠れしてましたが、もしこのまま彼と結婚したとしても、村にいる以上はいずれあの、アーミッシュ風のボンネットを被った女性たちのように粛々と…なんてことはできないだろうし。

 

そして村の女の子たちの中にも「将来のアミーナ予備軍」みたいな、落ち着きのない子たちもちらほら。そんな女の子たちを叩く素振りを見せたり、アミーナを厳しく諌める牧師アレッシオがまた、憎たらしいのなんのって。
彼に言い寄られているリーザじゃなくても、あんな封建的な男は勘弁してほしい。。。

恋敵リーザと保守的な村の掟

アミーナの恋敵として冒頭から登場する宿屋の女将リーザ。物語の中で敵役としての扱われ方も、のちの時代の恋敵よりも中途半端なのが残念。そしてこの役をなぜメゾソプラノに当てなかったのか?って思っちゃう。
それでも登場人物の中では、一番彼女に惹かれるなぁ。おそらくは未婚の女性が男性の寝室に入った、というだけでも咎められるような村の掟でもあったんじゃないかしら。

美しいリーザ(伯爵が「お手付き」したくなるの、わかるっ)

シドニー・マンカソーラは正統派美人で、伯爵との絡みもいい感じでした。最後にアミーナと和解したところでは、ちょっと陳腐だけども

いいね!女同士で一緒に逃げちゃいなよ!って思いました。

お母さんの愛

貞節を疑われ、村中から非難されエルヴィーノの裏切り(=元カノリーザにしゃあしゃあと求婚した)にあっても、お母さんのテレーザだけは、アミーナを必死で守ります。あれは心を打たれました。実の娘ではなくても、娘への愛は本物。

アミーナと義母テレーズ

ロドルフォ伯爵とアレクサンダー・ヴィノグラドフのダンディな存在感

そして私は思いました。
ロドルフォ伯爵よ…貴方が1幕最後のシーンで

「やべ…トンズラだッ」
と逃げずに、その場で
「彼女は夢遊病だよ。私は手を出してない(しそうになったけど)よ」
と言っておけば!!!

この作品はもっと短くできたのでは?!と。

伯爵って、知性もモノ(多分お金も)容姿も揃ってる、インテリでズルい、都会の大人の男だわ。
まぁこの作品のWヒロインと微妙な絡みもするしね。

おそらく彼自身、この閉鎖的な村が嫌で飛び出して「久しぶりに戻ってみるかぁ」と思い立ってやってきたところに、この事件に巻き込まれたというか、引っ掻き回したというか。。。
(小さい頃に失踪したという説もあり)

(村では多分御法度の)煙草(←スキあらば吸おうとする…ヘビースモーカー設定かよっ・笑)や地球儀やカメラ、望遠鏡、そして医学書・・・「珍しいもの」を持ってきた
「外からのStranger」が、「外」への潜在的な憧れを内在しているアミーナにとっては好奇心以外の何者でもなく。

伯爵がアリア「この土地に見覚えがある」を歌っている時、彼が降りてきたハシゴを珍しそうに触ったり見たりして「この外へ行ったら…?!」という内なる渇望に火をつけたとも言えるかな…

そして(田舎者の)エルヴィーノにとっては、都会の裕福な大人の余裕で己のプライドを傷つけた、憎いヤツでもありますね。

アレクサンダー・ヴィノグラドフのような品のあるバス(だよね?)じゃなかったら、とてつもなく嫌味で高慢、若しくはエロオヤジになりそうなところですが、そこの匙加減は流石に上手くこなしたな…と思います。

リーザとの!絡みで!定石ではリーザが伯爵の部屋にハンカチを落としたことになっているんですが
今回は!
伯爵がリーザが首に巻いてるスカーフをシュルッと外し、匂いを嗅いで(←)自分のガウンのポケットに入れるのよ!!!いやぁぁぁん❤️
あそこでアミーナが乱入して来なかったら、絶対リーザと落ちてる❤️❤️説得感満載でした。もう少しイチャイチャして欲しかった(違^^;)

夢遊病のアミーナがベタベタくっついてくるところから、(本気度薄めで)逃れようとするところは可笑しくて、隣のおじさんもゲラゲラ笑っていましたです。

無遊状態のアミーナ、下心と激しくバトル中の伯爵、リーザ

あとね。
ズルいねアンタ…って思ったのは、アミーナのママンが「リーザが先に伯爵に仕掛けたのさ!」と暴露し「その件については伯爵ご自身に聞いてみたいですね」と追求するも!

思いっきり聞こえないフリして、医学書読み耽ってバックれてるしd( ̄  ̄)

まあ、知見を携え、外から戻ってきたものの、可愛いアミーナも出ていってしまったし「この村の連中と一緒には、とても無理。。。」って考えて、彼もまた領主としては収まりきれずに出ていっちゃうんじゃないかしら。

タイトル回収して、引っ掻き回す重要な役どころでもありますし、存在感はバッチリだったんじゃないかな。

「ダンディ〜❤️」っていうツイートもちらほら散見してますし。

あのアリアはもちろん良かったけど、アレも話の流れ的には取ってつけたような感じがするから、コンサートとかで単独で歌ってもらうにはいいかもしれません。

物語性>音楽だったけれど──長文オペラ感想を残す意味

そういうわけで、つらつらと思ったことを書きましたけど、私にとってはやっぱり
物語性>音楽 の構図覆らず…という結論です。この演出で、推し様が出ていたから2回観たけど…ということ。演出がこれだったからモヤモヤも解消できたんですけどね。

最近はこういう感想を、ブログ等で長々と書くのは流行らないのかな。今回も集客は悪くなさそうだし、ツイッターやインスタで「いった!みた!」は拾えても、詳しい感想が少ないのが寂しい。。。

上演情報(METライブビューイング《夢遊病の娘》)

ベッリーニ「夢遊病の娘」ライブビューイング
2025年11月22日(Movix京都)25日(大阪ステーションシティシネマ)
指揮 リッカルド・フリッツァ
演出 ロランド・ビリャソン

アミーナ ネイディーン・シエラ
エルヴィーノ シャビエール・アンドゥアーガ
ロドルフォ伯爵 アレクサンダー・ヴィノグラドフ
リーザ シドニー・マンカソーラ

人物相関図

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この記事を書いた人

通称ヴァラリン。モットーは【チャーミングなオトナのオンナ】

還暦の足音が聞こえ始めた主婦です。
オットの定年退職を機に、2017年10月に神奈川県から奈良と京都の県境にお引っ越しして8年目。
老母のゆる介護をしながら2024.10-2025.4近畿大学科目等履修生として、司書資格取得しました。

ロシア人バス歌手アレクサンダー・ヴィノグラードフのファンサイトも運営中:) そちらもよろしくお願いします。
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A great fan of Russian Bass Singer Alexander Vinogradov & a webmaster of his fansite :)

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