【それは、2009年から始まった・・】
バス歌手のレパートリーとしては外せない重要な役・グノーの「ファウスト」のメフィストフェレスを私のご贔屓さん
アレクサンドル・ヴィノグラードフが歌い始めたのは、2009年6月から。
スペインのマヨルカ島(なんとマイナーな・・)で、急に決まった話で(もちろん入念に準備はしていた)聞いた時には「ええ〜!」とびっくりしたものでしたっけ。
しかし・・
本人は意気揚々と「この役がすっごく気に入ったんだ!!」と私に熱く語ってくれたこともありますし、
当時エージェントがアップしてくれていた、ロールデビューの時の2つのアリアをブログで紹介したら、友人たちはこぞって褒めてくれたものの(今は動画がなくなっちゃったけど)
私はどう頑張っても、一向にこの作品に馴染めず・・
(私が「この作品は苦手で・・」と彼に訴えたところ
「日本にはいい映像があるじゃない!ほら、ムカシギャウロフとかレナータ・スコットが出てたやつ!!」
と強力に勧めてくれたその映像こそが、私の「ファウスト苦手」のトラウマを植え付けさせた映像に他ならないっちゅーのに^^;
まだ彼のことを知る前・・オペラ入門時代にNHKイタリア歌劇団の映像を見ながら激しく爆睡した記憶が・・すみません、本当に罰当たりなファンですぅ・・)
それでも、彼の「ファウスト」の公演がある度に「今度こそ出かけてみようかな」とは思えど、どうも(1*)私の方のタイミングが合わず、見送ってばかりで・・
今回ももし、昨年9月のブエノスアイレスでの「ドン・カルロ」のフィリッポデビューに立ち会えていたら、行ってなかったと思います。
【なに!どこがそんなに苦手なの?】
・グノーの耳触りの良い音楽(何度も何度も睡魔と戦ったあの日々よ。。。)
同じグノーでも、「ロメオとジュリエット」の方は2011年にスカラ座で彼がローラン神父を歌ったのをきっかけに、なんとか克服。しかしこちらは・・;
・宗教色バッリバリ。私は仏教徒でゲーテの原作も意味不明だし・・
オペラ入門時代に、ケン・ラッセルが演出した「ファウスト」では、マルガリータを修道女に設定したのがスキャンダラスだった…という話を聞いて、それが何を意味しているのか、全く理解できなかったのですが、2012年にメトのライブビューイングを字幕付きで集中して観た時に、その意味がやっとわかりました。
メトの上演で演出家は「宗教色を極力排した」と仰ってましたが、私たちから見たら、充分に強いと思います。メフィストが十字架を極度に恐れたり、最後にマルガリータが正気を失いながらも祈りを捧げて天に召されるところなど、肝心の部分はわかりやすいほどに描かれていましたし。。。
その時アウトラインがつかめたことはつかめたのですが、(2*)まだよくわからなかったのが
・何故メフィストは、あそこまでマルガリータを追い詰めるのか
(聖=信仰と邪=悪魔の対比? しかも十字架を怖がっているのに、どうして教会にいるの??^^;)
・追い詰めておきながら、最後にファウストに「マルガリータと逃げろ」と助けようとするのは何故?
(助けるのではなくって、それもメフィストの策略なの?)
というとこら辺り。
・メフィスト様の2つのアリア・・;
今初めて書いたけど、実はそうだったんです^^;
消えてしまったロールデビューの時のアリアの映像はともかく、2010年にマチェラータ音楽祭で歌った時のハイライト映像を見ても、どこに魅力があるのかよくわからない。
(フランス語に難点があるとしょっちゅう言われる彼の歌も未熟だと思うし・・・)
特に「金の子牛」の方は、あそこでどうしていきなりメフィストが出てきて一曲歌い、ワインを樽から溢れさせ、しまいには村人に悪魔だということがバレて十字架で退散させられる・・というのが、全くもって理解できない。宗教的知識の欠如と言われればそれまでなんですが、流れを妨げるだけじゃん・・と感じちゃうんですよね・・;
セレナーデの方は、あのけったいな哄笑がまた意味不明だし・・
で、私本当に、これでバス歌手のファンって言えるのかしら・・と、長年の悩みの種でもあったわけです。
【予習する!】
苦手だ苦手だと言いつつ、意を決して外国まで出かけていくわけですから、楽しめなかったらもったいない。
真面目に予習をしておこうと思い、改めて2つの映像を交互に見返しておりました。
一つは2004年にROHでかかったマクヴィガー演出のDVD(アラーニャ、ゲオルギュー、ターフェル)
もう一つは前出の2012年にメトのライブビューイングの映像で、WOWOWで放送されたものを録画(カウフマン、ポプラフスカヤ、パーペ)してあったので、
字幕はこの映像と「オペラ対訳プロジェクト」で劇の進行具合とリブレットのチェックをしました。
ROHの方は、表題役だけはこっちの方が断然好みなんですが、ターフェルのメフィストは全体を通じて威圧的過ぎて(決してお顔だけの問題ではないと思う)
エレガントな悪魔像からはほど遠い気がしましたし、傑作?!とも言われるヴァルプルキスの夜の場面のバレエも私の趣味じゃないなあ。
メトの方は、パーペが飄々といい味を出していると改めて思いました。パーペもターフェルも、いわゆるフランス本流のメフィストからは遠いところにいると思いますが、丹田に力が入っていてブレないパーペの方が、落ち着いて見られる(聞ける)し、ダンディに見えます。
こちらもヴァルプルギスの場面のアトミックシーンはどうなの〜?という感じでしたが、音楽の作り自体が好み(=違和感がない)なので、ちゃんと場面として受け入れることができました。
で、少しずつ音楽と劇の進行の流れがわかってきて、綺麗だな〜ここ好きかも♪と思えるところも出てきて。
例えば、2幕の最後でファウストがマルガリータを口説くところの、マルガリータの心の揺れ具合とか、結ばれたところの幕切れの音楽はすっごく官能的ですし、美しい。
それから教会の場面。これは場が入れ替わっていることもあったりですが、ここのマルガリータの苦しみは直感的に共感できるように。
対するメフィストの冷酷さも、冷酷なんだけど格好いい・・という、なんとも矛盾、倒錯した気持ちを抱かせます・・;(←メフィストの魅力ってここに尽きるのかな・・)
また、この作品をわかりやすく解説して下さっているサイトも勉強になりました。
は、以前ファウスト苦手克服の為に友人が紹介してくれたサイトでしたが、その時はよくわからなかったけど、今回改めて読み返してみて、やっと理解できたかも。
その他、YTに上がっている映像もいくつか流し見してみましたが、一応楽しめそうかも・・という段階までは、なんとか持ってくことができました。
【今回のエッセンでのファウストは】
ベルリン・ドイツ・オペラとの共同制作(元は2008年にバーゼルで出ているんですが、舞台装置や衣裳はまるで別物です)で、どういう舞台なのかをDOBのサイトに上がっている舞台写真で予めチェックしておきました。
(この、3つの同じ演出での舞台の違いは感想を書いた後でまとめます)
かな〜〜り、現代的な演出っぽいけど、写真の中で雪が降り注ぐシーンがとても綺麗で印象的。
その部分だけでも楽しめるかも・・と期待半分、
メフィストは上半身裸だったり、素肌にキンキラキンのスパンコールのついたピンクのジャケットを羽織ったり・・で、胸に悪魔のタトゥー入れてる・・
う〜〜ん・・彼がこれをやるのかあ・・受け入れられるかなあ・・と、不安半分。
そんなこんなで購入した席は、1回目(2月4日・トータルでは2回目の公演)は2Fバルコニー席右側の中央寄り。2回目(2月7日・トータルでは3回目の公演)はパルケット(平土間)の前から2列目のほぼ中央でした。
・・ここまでが、前振りです。
(すみません、既にじゅーぶん長いんですけど、私がファウストが苦手だったことを先にまとめておきたくて・笑)
続きはまた後日。。。
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(1*)彼がメフィストを歌ったのは今回が6回目。2009年マヨルカ島→2010年1月シチリア→同年7月マチェラータ音楽祭→2012年5月モントリオール→2014年3月アトランタ。
このうち、真剣に行くことを検討していたのは2012年のモントリオール。でも私の体調が最悪だったことと、プライベートでのっぴきならない事情が重なり断念。
(2*)当時疑問点をブログに書いたところ
メフィストが必死になってマルガリータを堕落させようとするのは、仰る通り聖(信仰)の象徴としてのマルガリータを堕落させられるか、悪魔のトップであるメフィストが神に対して「悪」x「聖」のゲームを仕掛けているということらしいです。
(メフィストの勝ちかと思いきや、結局最後は神の力で救われるので神の勝ち~)
そして、
>追い詰めておきながら、最後にファウストに「マルガリータと逃げろ」と助けようとする
のは、ファウストの生きている間はメフィストが僕になって全ての願いを叶える、という契約を交わしているからだと思います(その代り死後のファウストの魂はメフィストのもの)。
とのコメントを頂きました。なるほどなるほど・・_φ(・_・