今更感大有りです(もはや「蔵出し鑑賞記」の世界・・;)
このコンサートはとても楽しみにしていて、予習音源リストまで作って張り切ってたのに、10ヶ月もほったらかしてしまいました💦
https://valencienne-tea.com/?p=8688
ということで、当然細部は忘れているんですが、当時のメモ&10ヶ月以上経っても印象に残っていることを。
ツイッターや予習音源の記事でも書いていたんですが、このプログラム、特にラフマニノフの方は、通常バスが歌う作品は最初の「運命」一つだけで、残りはソプラノ若しくはバリトンによって歌われるものです。
バスの為の歌曲をもっと聴きたかったのが本音なのですが、とりわけ最初の「運命」は、アレクサンドル・ヴィノグラードフも学生時代から好んで歌っており、音源も数種類あるので、彼の表現が私のデフォルト。
ヴィノグラードフはこの歌を、なんというのかな・・・
青年が、ちっくしょー!人生ってこんなもんだよな…でも、また進んで行くしかないんだよな・・・みたいな、
ある種の吹っ切れ感を持って、爽やかに、ドライに歌っているんですけど、
…フー様、濃いい〜〜〜〜〜〜!ウェット〜〜〜〜!
も〜出だしから、粘る粘る。
この作品で、何度か繰り返される「運命」がドアをノックするような”Стук, стук, стук…”一つ取っても、「トン・トン・トン」と弾むようなリズムのヴィノグラードフに対し、
フルラネットは「ドン・ドン・ドン」を通り越して^^;ネチャ・ネチャ・ネチャ・・・というくらいに粘る^^;;;;;
ヴィノグラードフのが青年の挫折だとすれば、
フルラネットは明らかに老人の恨み節そのもので、こんなに恨みがましい(失礼^^;)「運命」は今まで聴いたことがないわ〜と耳から鱗。
以前この二人の「エフゲニー・オネーギン」のグレーミン侯爵のアリアの聴き比べがツイッターで話題になった時に、何方かが
「ヴィノグラードフが北海道産天然鮭だとすれば、フルラネットは脂ギンギンの養殖ノルウェーサーモンみたいな感じね」
と仰ってたんですが、正に、まさにその表現がドンピシャ^^;
オペラでも役に没入型のフルラネットですが、ロシア歌曲の世界でも一貫してそういうスタイル。
これはこれで一聴の価値があると思いました。
で、直感したのが
「運命」でこれだけウェットな表現をなさるのならば、もしや「アレコ」のカヴァティーナって、すっごく上手く歌うんじゃない?!
・・・ってことだったのです。
なので、前半のアンコールでまさかの嬉しいびっくり、アレコのカヴァティーナを歌って下さった時は、思わず心のなかでガッツポーズしましたわよっ。
哀切、恨みがましさ(ごめんなさい^^;)ねちっこさ・・・うんうん、これがアレコだよね〜と、思いましたです。全曲歌ったことはなさそうですけど、これを聴けたのはとっても嬉しかったです。
「運命」以外の作品は、これらをよく歌っていらっしゃるディミトリー・ホロストフスキーのファンの方々が聴いたら、どう感じたのかを尋ねてみたいと思いました。
聴き込み不足で私にはそれだけの素養が足りなかったのが残念でしたけど、ソプラノが歌う「リラの花」だけは、さすがにかなり無理があるような気が・・・💧
後半のムソルグスキー。トリの「死の歌と踊り」以外は予習以外では初めて聴きましたが、さすがにこれらはバスが歌うことが多い作品ということもあって、ご本人の(粘着な)表現にも合っていたと思います。
特に「夜」は予習でも嵌りそう・・と感じただけに、生で聴けたのは良かった。
「死の歌と踊り」は通常と違い
トレパーク→子守唄→セレナーデ→司令官
という順番でしたが、やっぱり私はいつもの順番(トレパークが3番目に来る順番)の方がしっくり来るかな・・
これらのムソルグスキー一連の歌曲を聴きながら、今のフルラネットの持ち役のうち、あの時の来日演目のフィリッポ2世よりも、寧ろボリスを今、聴きたいな・・・と思いました。
フィリッポよりも更に演劇的表現がハマる役ですし、歌曲を聴いてびっくり、ロシア語も(ちょっと、びっくりするぐらい^^;←どこまでも失礼なヤツ・・・すみません💦)美しいですし・・・
御年67歳ですが、まだまだ世界トップバスの座は譲らんぞ・・的な風格・・・凄い、の一言に尽きます。
実はフルラネット、録音で聴いていると、サビの効いたその声の魅力が伝わりにくい気がして、音だけで聴くことは少ないんですが(演技が細かいので、映像で観るのは大好き)
この方の真価は生演奏でこそ、でしょうね。生で聴くと音圧が凄くって、声酔い、歌酔いしちゃうというか・・・
何はともあれ、ロシア歌曲大好きの身の上としては、世界トップレベルの歌唱を前から2列めで、声のシャワーを浴びつつ堪能できたことは、とても幸せな体験でした。
(余談:前から2列めってことで、ご尊顔をじーっと観ながら拝聴してたんですが、なんか、よく目が合った気がしたんです^^;自意識過剰ですね、ハイ・・・)
【あの日のツイート】
フルラネット、あまり調子は良くなさそうで途中鼻をかんだり^_^;咳払いしたり…だったけど、歌にはそんな素振りが全く現れてないのは流石。4年前にマドリードのドンキショットで聴いた時よりも低音は響かなくなってた気がしたけど、その分高音にスライドしているかのような見事な鳴り。
— ヴァランシエンヌ (@valen_vino) October 7, 2016
(しかし、ロシア歌曲も色んな表現があるもんだとしみじみ…どれが正解とかいうんじゃなくて、それぞれの歌い手さんがそれぞれの解釈で表現するわけで。一人に凝り固まらずもっと色んな人のを聴かないと…その中でやっぱり彼様のが一番好きと思えれば幸せだわー😘)
— ヴァランシエンヌ (@valen_vino) October 8, 2016
2016年10月7日 トッパンホール 2列目中央ブロック
フェルッチョ・フルラネット(バス)
イーゴリ・チェトゥーエフ(ピアノ)
プログラム
ラフマニノフ:
運命 Op.21-1
夢 Op.8-5
リラの花 Op.21-5
夜の静けさに Op.4-3
ここはすばらしい場所 Op.21-7
私は彼女の家に行った Op.14-4
時は来た Op.14-12
いや、お願いだ、行かないで Op.4-1
春の洪水 Op.14-11
ムソルグスキー:
悲しげに木の葉はざわめく
あなたにとって愛の言葉とは何だろう
老人の歌
夜
風は激しく吹く
ムソルグスキー:
歌曲集《死の歌と踊り》
トレパーク/子守唄/セレナード/司令官