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140407 イーゴリ公@Metライブビューイング

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(予習その他資料の紹介は一つ前の記事 こちら=>=>=> ご参照下さい)

土日の上演は盛況だったとのこと、平日昼間のロシアものライブビューイングとしても珍しく、客席の半分ぐらい埋まっていました。(「鼻」の時なんか15人ぐらいだったのに)

さて、うじうじしたイーゴリ公に何となく釈然としないまま、ライブビューイングに臨んだわけですが、当日夜に

あーでも今日初めてイーゴリ公がウジウジじゃなくて苦悩してるのねって思えた。ご贔屓さんがこれを準備中なのもやっと納得。実演で見たら辛くていたたまれなくなりそうだわ。
— ヴァランシエンヌ (@v_valencienne) April 7, 2014

とツィートしましたが、
それは身も心も傷つき、ボロボロのイーゴリ公がラストシーンで、民衆に先立ち、瓦礫を拾う姿に感動した…わけではなく^^;


1幕のイーゴリ公の、捕らわれの身を嘆くアリアが、イルダール・アブドラザコフの歌唱を通して初めて心に迫ってきたのです。

ちょっと前に友人が、ヒイキ歌手さんの「ボリス」をご覧になって来たときのことを

「思い入れのある歌手で見ると、こんなに見るのが辛くて苦しいなんて。終わる頃には自分も息絶え絶え、ヴァラリンさんもいつかくる【その日】は覚悟しておかないとダメよ」

と言ってたんですけど、ふと、その言葉が脳裏に蘇り、ああ、イーゴリ公もロシアオペラの「苦悩する主役」の系列なんだわ、って、胸に迫ってきたのです。
2年前のことになりますが、自分のご贔屓さん(アレクサンドル・ヴィノグラードフ)がサリエーリを演奏会形式で歌った時に初めて、彼がいずれボリスを歌う時には、こういう表現になるのかもしれない…と頭で繋がった瞬間があったんですけど(見てて苦しかったですもの)イーゴリ公もそう。
アブドラザコフの歌を通しながら、私は、ヴィノグラードフがこの役を歌う「いつか」の時のことに思いを馳せていました。

ボリスも悩む、(作品は小さいけど)サリエーリも悩む、そしてイーゴリ公も悩んでいるんだわ…と。
これまで「ウジウジ」と感じていたものが、この日を境に「悩み」に聞こえるようになりました。

とりわけ(今回は最後に使われていましたが、ボリショイの映像では脱走する前に歌われていた)

モノローグで「仕事で失敗をした後、自分よりも優れたお前達に託す…」というくだり等は、すごく自虐的。

こういうキャラクターって、サラリーマンの男性や、その近くにいる奥様などには、とても共感しやすいのではないかしら?特に瓦礫を拾わなくても、日本人にはわかる感覚だと思います。

そういうわけでイーゴリ公は、立派な英雄として歌い通すにはちょっとキャラクターがズレてしまいますから、こういう細やかな心理表現は、現代の歌手の方が向いているのかもしれません。

アブドラザコフは、YTで単独のアリア等を聴いたことは何回もありますが、オペラでがっつり、通して聴くのは初めて。

どちらかというと彼の野性的な表現よりも、彼のお兄さん・アスカール・アブドラザコフの方がより知的で私好みということもあり、今回どうなのかな〜〜?と思ってたんですが、なかなかどうして、理に叶った表現をしているものだと感じました。今までしっくり来なかったものが、不意にすとんと「落ちて」来るような時がありますが、今回はまさにそう。

意外なことに、ロシアものは「ホヴァーンシチナ」に続き二つ目のロールとのことですけど、この役には合っていると思いました。そういえば今まで聴いたことがあるのは、イタリアものとフランスものばかりだったかしら?

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実はキャストを見た時に一番心配だったのが、コンチャク汗を歌ったステファン・コッツアーン(通称こっつあん)。
こっつあんは確かに低い声の持ち主ですが、私、彼の声は嫌いじゃないんですけど^^;
深い声ではないのですよね。それといつでも、表現が平坦なのが気になっていまして;;

コンチャク汗には、これまでの予習で聴いたネステレンコ(映画版の吹き替え)や
パータ・ブルチュラーゼ(ROHの映像では声も少し太めの容貌も立ち居振る舞いも全てがハマりすぎ!かっこ良すぎ!!!)級の、ふっか〜〜〜〜〜〜い声が欲しいと思っていたので、
むしろガリツキーに当てられていたミハイル・ペトレンコと交代した方が、声のバランス的には収まりがいいんじゃないかしら?と想像していたのです。

で、コンチャク汗の場面を見て聴いて(ハゲづら+なにゆえあのようなカラシ色の軍服?まるでユル・ブリナーのようであったことよ・・・)
あああ、やっぱりこの役にはまだ早い!この後の、イーゴリ公の脱走&娘とウラジーミルの結婚を許しちゃう包容力と器の大きさを聴衆に植え付けさせるシーンで、この平坦な表現を聴かねばならんのか・・・orzと少し憂鬱になったんですが。

…ええ、杞憂でした。
だってそのシーン、まるごとカットされてますから。

コンチャク汗の出番はポロヴィツ人の場面までで終了。もうもう、これにはプンスカプンプン!
あそこがないと、コンチャク汗が添え物のような役になってしまうし、コンチャコーヴナとウラジーミルの存在感も薄まります。

逆にガリツキーは、第2幕はまるごと彼の為に当てられていた感じでしたから、
爪楊枝しーしーに始まり、乱暴でぶしつけな振る舞いを惜しみなく演じる(でも歌も良かったよ)ミハイル・ペトレンコでやっぱり良かったんだわ・・・と思ったわけです。そういう配分ならば、この配役でバランスが取れますもの。

コンチャコーヴナのアニタ嬢は、芥子の花畑で歌った官能的なアリアよりも、対イーゴリ公と、ウラジーミルの取り合い(笑)したときの3重唱の方が迫力があって良かった。「私を奴隷にして!」のくだりはなんという迫力。あそこはやっぱり、イーゴリ公が脱走した後で部下達を呼び集めた後の激しいやり取りを含め、婚礼を許してもらうところまでの喜びも聴きたかった〜〜と思います。

脇のお間抜け酔っぱらいコンビ、ボリスにも似たようなコンビが出て来ますよね~
「ロシアでは知恵と酒があれば生き延びられる」っての、ツボでした(o゜▽゜)o

歌の方はその他の方々も、皆さん適材適所(イーゴリ公の嫁だけは、今回よりもボリショイの放送映像のソプラノさんの方が、より私好みでした)で、ノセダの指揮も悪くなく、いい演奏だったと思います。

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しかし、演出に関しては突っ込みどころが満載。
モスクワ出身の鬼才、ディミトリー・チェルニアコフ。この2、3年で欧州の大きな劇場は、ほぼ席巻したのではないでしょうか?
私は、彼が2005年冬に演出した、ベルリン国立歌劇場での「ボリス」を見て、音楽が台無しになってしまうような演出にものすごく腹を立てたことがあります。
その時のレポ=>=>=>

その時老僧ピーメンを歌ったのが、私のご贔屓さんだったんですけど、
ええまあ、若干29歳の彼にバーコードのハゲづらをかぶせやがって(まだ根に持っている・笑)
見たい人はこちら=>=>=>

今回も若いバスであるこっつあんにハゲづらをかぶせているのを見て、
「若い歌手に髪の毛があるといけない理由でもあるんですかっ?(ちょぴっと怒)」と突っ込みたい。
(厳密にはバーコードには髪の毛(少しですが)ありますけどね)

それから、今回も最初の方のシーンで合唱が「きゃあ!」と悲鳴を上げている箇所がありましたが、あれも「ボリス」の時にやっていて…
耳障りですし、そこで音楽が途切れる感があるから、あまり好きではないです。

芥子の花のシーンも色々言いたいことがあるのですが(笑)
今回、一番違和感を感じたのはそこに至るまでに、映像を使っていたこと。

その映像が穏やかなものではないからとかいうだけでなく、どうも私、映像を多用した演出は苦手。ましてフラッシュみたいにピカピカすると、目障りですし・・・
(劇場のポケモンフラッシュもどきで実際に気分が悪くなったこともあるので、心理的にも肉体的にも受け付けないみたいです)

おまけにあんな大きな顔のアップまで使っているでしょう。もしあれが自分のご贔屓さんだったら、尚更引くと思いますわ…

芥子の花のシーンでは、あそこがイーゴリ公の脳内を表しているというのは事前に折り込み済みだったのですが、まさかそれが「イーゴリ公の幻想、もしくは記憶」を意味しているとは思い至らずに、

コンチャコーヴナが歌い始めた時、イーゴリ公を誘惑しているの?とか、
息子&娘のラブシーンに、お父さんがそんなに近くにいたら邪魔だよ!とか、
イーゴリ公のアリアの時に、なぜ嫁が出てきて、しかもコンチャコーヴナに水差しを渡したりとか、あげく、イーゴリ公の手を洗ったりとか、
コンチャク汗の軍服はなぜカラシ色なのか?とか

な ん の い み が あ る の ー ?

と、つよ〜〜〜く思ってしまったというわけ。

でも、そういう引っかかりが少なからずあったとはいえ、おうち鑑賞ではどうしてもダレてしまって、居眠りしたりもしますが
映画館なら(居眠りは全くないとは言い切れませんが)少なくともよそ事はしませんし、集中できる環境で、あれだけの大作を見ることが出来たことで、全体的には大満足。
最終的には、演出よりも歌手の皆さんの表現力が勝ってたと思いますし、そういう時は、多少演出に言いたいことがあっても、マイナスにはならないので:P

いずれWOWOWでも放送されると思いますが、出来ればブルーレイ化して欲しいと思います。上演する為には、ふんだんに予算を使える劇場でないと上演できない(なんせ、合唱団からバレエ団まで、劇場の総力をあげて取り組まないといけないでしょうし)作品だと思うので、出来上がった時にはどれもそれなりに、見応えのあるものになっていると思います。

そしてできれば、「イーゴリ公」新国で是非取り上げて頂きたいです。自前の優秀な合唱団&バレエ団を抱えてますし、

時代考証をきちっと考えた、壮麗な絵巻物風な演出でお願いしたい。
新国の奥行きのある舞台ならばきっと、素敵なものが出来上がると思います。
ポロヴィツ人の踊りも、トルコ風とか今回のメトの現代ダンス風ではなく、コサックダンスみたいなのがいいわあ。

その時は是非

指揮:ヴァシリー・ペトレンコ(新国よ、今のうちにペトレンコ呼んでくだされ)
イーゴリ公:アレクサンドル・ヴィノグラードフ(日本でこの役歌ってくれたら、いつ死んでもいい<=命がいくつあるのよ、私^^;)
コンチャク汗:ドミトリー・ウリヤノフ(ウリ様の声はこの役に合うと思うぞよ)
イーゴリ公の嫁:Evelina Dobraceva(ラフマニノフ歌曲集で気に入りました。往年のヴィシネフスカヤみたいな表現が◎)
で宜しくお願いしますლ(๏‿๏ ◝ლ

(これだ!というキャストのリクエストがあれば、新国にアンケート出しませんかー?)

長い上に、どさくさに紛れて願望まで書いてしまいました。ここまで呼んで下さった方々、ありがとうございます:)))

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指揮:ジャナンドレア・ノセダ
演出:ディミトリ・チェルニアコフ
出演:イルダール・アブドラザコフ(イーゴリ公)
   オクサナ・ディーカ(ヤロスラーヴナ)
   アニータ・ラチヴェリシュヴィリ(コンチャーコヴナ)
   セルゲイ・セミシュクール(ヴラヂーミル)
   ミハイル・ペトレンコ(ガーリツキィ公)
   ステファン・コツァン(コンチャーク)
上映時間(予定) :4時間30分(休憩2回)
 MET上演日 :2014年3月1日 言語 :ロシア語

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