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180519-25 ルイザ・ミラー@METライブビューイング

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【日本語字幕ひとつで、こうも印象が変わるものか】

ご贔屓さん(ヴァルター伯爵を歌ったアレクサンダー・ヴィノグラドフ)のMETカンパニーデビューに加えてLVデビューまで果たしたことで、結局3回映画館に足を運びましたが、印象的だったのは、先ずそのことでした。

この作品、これまでにヴィノグラドフが過去3回歌ったうちの2回がラジオ放送&映像化されており、その時々に、部分的にはいいな・・と思う場面があれども、
作品全体にのめり込むほどには至りませんでした。

そしてその都度、もちろん今回の公演のラジオ放送(3/29の初日、4/9、そして4/14の今回の映像配信と同時に中継されたもの)を聴いた時には、嘗てはCDのリブレット、今はネットで読める対訳にも目を通していたのですが、ヴェルディの初期〜中期のブンチャッチャ作品にありがちな、起承転結が弱いご都合主義の作品だと思っていたのです。

しかし、映画館で、字幕付きで歌手の演技歌唱を観ると(聴くと)
「筋立てが弱いんじゃなくて、むしろいろいろ盛りすぎて訳がわからなくなっているんじゃないか、これは一度原作のシラーの戯曲にも目を通しておくべき?」
とさえ感じました。

なんせ「クスッと」笑うことすら許されない厳しさを持った「徹頭徹尾ザ・悲劇」の典型…流石に「ドン・カルロ」と同じ作者の書いた戯曲であることよ…(目下シラア原作の岩波文庫「たくみと恋」(「たくらみと恋」じゃないのがミソ)を読んでるとこです^^;)

加えて今時、他の劇場では有り得ないようなクラシカルでゴージャスな舞台、歌手にとっては無駄な事を考えなくてもいい演出もプラスになったのでしょう。あれなら歌に集中できるし、観客も余計な謎解きなど考えなくても、作品にグイグイ引き込まれていくわけです。

タイトルロールは今やすっかりMETのディーヴァに君臨しているソニア・ヨンチェヴァ。私自身が彼女が活躍するようになったここ数年間、ライブビューイングから離れていたこともあり、全曲でちゃんと聴いたのは初めて。

好きなタイプ?と聞かれたら、うーむちょっと微妙だなあ、上手いんだけど、例えば2幕のヴルムとの場面でも、もう少し楚々とした感じが欲しい、全体的にも、もっと情感が欲しい…と思っているんですが、
じゃあこの、コロラチューラありーの、劇的表現ありーの、な難役を他に誰が歌えるのか?となると、ヨンチェヴァは現代最高水準(いやもしかしたら過去の演奏を含めても)のルイザであることは確かだと思います。

一番きれいだな…と思ったのは、3幕で全てを諦め、父と共に故郷を去る決心した後、父を休ませてから「この地での最後のお祈りね…」からロドルフォが入ってくるまでのとこで
達観したような表情でロドルフォ宛の手紙を破いた切れっぱしをいじってたところ…最初は髪の毛をいじってるのかと思ってたんですが、よく見ると手紙を細かく破ってるんですね。何故かこのシーンは心に響きました。

ミラー父のプラシド・ドミンゴは、音だけ(今回のMETでの公演は初日とこのLVを含めて3回ラジオ放送がありました)の時には、ロドルフォのベチャワとの聞き分けがつきにくく
「やっぱりふつーのバリトンで聴きたいなあ…」と思ってたんですが、
字幕付き映像を伴うと、見た目が「まんま」なこともあり、これぞ理想的なミラーかも、とさえ思えるから不思議です。

今回の公演の座長さん的な存在で公演全体を締めて下さってたと思います。

ロドルフォのピョートル・ベチャワ。すっかりスターテノールの風格で、この役はロールデビューだったと仰ってたのは「え?そうなの?」って思いましたが、彼のインタビューでのこの作品の解説(ドニゼッティ様式から始まり、3幕は「オテロ」だ)はとてもわかりやすく、字幕以外にもこの作品に対しての認識が深くなった要因のひとつでした。

それにしても、ロドルフォよ…貴方の浅はかな行動こそがこの悲劇を生んだのでは?!って、字幕付きで観ててしみじみ思いました。

もしロドルフォが、最初からルイザに身分を明かして「父上、僕はこの女性と結婚したいのです」と説得していれば。
ヴルムに強要されて書いたルイザの手紙を読んだ時に、もっとルイザを信じてあげていれば。
父の策略にまんまと引っかかり、勝手に裏切られたと思い込んでルイザに毒を飲ませる前に、手紙の真意をルイザに問いただしていれば。

…もー、ほんっとテノール●●っていいますが(ドン・カルロのカルロには好意的なんだけど、この役はほんとあほ〜としか思えない😅)
貴方が頼りないから、お父様は貴方の地位を万全にしたいと悪に手を染めたのよ…と、声を大にして言いたい💦

脇の歌手まで隙がなかったと思いますが、フェデリーカのペトロヴァもいい味を出してたと思います。あまり話題に上らないけど、伯爵と絡むシーンが多いし、今回とても好評だったアカペラカルテットは、彼女の充実した低音も成功の起因の一つだと思います。
ルイザの友達・ラウラも超美人で、歌も上手いし(容姿的に理想のルイザは彼女みたいな感じ)この辺りを充実させることができるのも、最近のMETの強みでしょうか。

で、重要な脇の一人を担っている、伯爵の片腕・ヴルムを歌ったディミトリー・ベロセルスキー。
1975年生まれのウクライナ出身のバスで、ロシア・東欧系があまたひしめく昨今のこの世代のバス歌手の中でも一段上の声を持つ(と言われている)彼を初めてちゃんと聴いたのは、昨年のザルツブルグでのムーティ指揮「アイーダ」でのランフィスのTV放送。

えええ?!この人こんなに低音が浅いの?!これで若手バス筆頭とは、これいかに・・
とも思ってたんですが、いや〜〜〜今回のヴルムはほんっと、良かったです。

いい意味での下品さが
(ご本人も「すんでのところで嫌な奴だけにならないようにしています」みたいなことをおっしゃってたけど、まさにそういうかんじ)
役に合ってる。

エレガント且つアロガントな伯爵との対比がしっかりついていて、思いの外、悪役二重唱(珍しいバスの二重唱)が評判高かったのは、
バスとはいえ二人の声質が微妙に違うこと、そして二人共がしっかりした一流の声と技術を持ち合わせているからに、他なりません。

そして。
ヴァルター伯爵を歌ったアレクサンダー・ヴィノグラドフ。「こんな歌手です」にも書きましたが
なんでかこの役は、収録と縁が深くて(そんなに歌った回数が飛び抜けて多いわけでもないのに)今回の映像収録が3つめ。

とは言っても直近の映像収録はもう10年前…当時はまだ、蚊トンボみたいにスリムで、少年っぽい面差しすら残していた頃の「頑張って老けメイクしてます」的な違和感はどうにも拭えず^^;

また、この作品自体&ヴェルディの他のバスの役ほどには深みを感じない+彼の持ち味とは合わないと感じていたため、どうもこの役が好きになれず・・・

なので、この役でメトデビューが決まったこと自体、正直言ってあまりうれしく感じられることではなかったのです。デビューが決まったアナウンスがあった昨年2月から、約一年3ヶ月の間…随分色々と、感情の振幅もありました。

「あの役でデビューしても、地味だし・・」
「あの大きな劇場で歌って大丈夫なのかしら・・」
「LVのオペラ普及のための功績は大きいけど、そこでちゃんとした評価を得ることができるのかしら・・」

・・などなど、私のお節介は今に始まったことではないけど^^;
カンパニーデビュー前には、芸能の神様・吉野の天河弁財天や同じく芸事の日本のミューズとも言われる伎芸天が安置されている秋篠寺にも、彼のデビュー成功のお参りに行ったり^^;;;;;
(近いって素晴らしい・・)

3月29日の初日、4月9日のシリウスでの放送、4月14日のLVとの同時ラジオ放送、そして一ヶ月半遅れの、日本でのライブビューイング・・
その都度(もちろん放送がなかった公演の時も)日本から身勝手な熱い念を送り(祈りの気持ちは届くと信じて)
ドキドキしてました。

初日の放送の時には、ラジオのアナウンサーも「ヴィノグラードフは今日がカンパニーデビューです」と紹介して下さったり、聞いてくださった皆さん声を揃えて「よかったよ!」と言って下さったんですが、
声に「緊張してます」って書いてあるのがわかるくらい緊張してるのがラジオ越しに伝わってきたり、メト常連の共演者との声の厚みの違いや、微妙な舞台さばきなども含めてこの先大丈夫なのかと本当に心配でした。
その一方でランの回数が多いので、後のほうになればなるほど、慣れてきて良くなってくるだろうな・・とも感じていました。

2回目の放送の時(4月9日・これが4回目の公演)が一番いいなと思ったんですが(歌に攻めの気持ちが見えてたし、体に音楽が入ってくる気がした)
LVと同時放送だった14日(5回目公演)は、音だけで聴いていた時は「また緊張してないか?!」と思ったんですが、実際に映画館でいい音&映像付きで見て(聴いて)みると、それは全くの杞憂でした。

役に実年齢が近づいたこともあるけど、今回の伯爵のメイクも衣装も、ほんとよく似合ってた。LVの感想を探っても「見かけが貫禄不足で・・」ってのは皆無で、ドミンゴ演じたミラー父に負けずに対峙してたという、嬉しい感想がほとんどでした。

男性陣の中では一番スリムでしたけど、ヴルムのベロセルスキーが大柄で、スリムな伯爵・・という見た目は、ある意味で神経質な伯爵っぷりをよく体現できてるな・・と思いましたし、もちろん、声的なバランスも申し分なく。

父として、子供にはいい道を歩んでもらいたい・・そういう気持ちは親なら誰しも持っているもの。その愛情表現が、ミラー父とは全く正反対で(1幕の二人のアリアの歌詞のなんと対照的なこと!これは字幕を見ながら「ああ、そういうこと!」とストンと落ちてきたことの一つ)
それゆえ、二人とも愛する子供を失ってしまったのだけど。
あんまり好きな役じゃないんだけどな・・と思ってたけど、根の深い、屈折した気持ちを細かに音符に乗せて、決して「伯爵だって嫌な面ばっかりではないのよ」と、感情移入できうるだけの表現を成し得ていたと思います。

この役はいわゆる「大物バス」が歌っている録音・録画があまりなく、うまく歌える人が少ないのはバスにしては音域が高目で、それでもはっきりバスじゃないとというのがやりづらい・・というのが原因らしいんですが、そういうニッチな隙間音域?!こそ、どっしり響く低音を持ちながらも高音域も強いヴィノグラードフの出番!!案外この役で、名を残すことになるかもしれないな・・なんて思い始めています。

また、LVという土壌が、私が思っているよりもはるかに広い客層に受け入れられていること、自分では思いもよらない感想が読めたのも、面白い体験でした。やはりLV普及の効果は大きいものだと感じました。
(今、オペラ界でちょっと話題のBL萌え?!した層も一定数いらっしゃって・・この作品のどこにその要素があるのか、想像力の薄い私にはよくわからないけど^^;;;;;)

普段から劇場に足繁く通っていらっしゃる方以上に、そういう方達からの「バス二重唱やアカペラが良かった」という声は嬉しかったです。(バス二人のインタビューの地声が素敵!ってのもね!!)

私よりもこの作品にうんとお詳しい友人曰く「少なくとも悪役二人は、これまでの映像の中でもベストかも」とのことですし、もしディスク化が決まれば、決定的名盤がこれまでなかったこの作品でのベスト盤になる可能性は、充分秘めていると思います。

まとまらない感想(感傷も含まれているから長くなるw)になりましたが、
とにかく、彼のメトデビューがうまく行ったことを、心から嬉しく思っています。

来年の「カルメン」HDでも、さらに多くの方に見て聴いてもらえるチャンスがあること、今から楽しみです。

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