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150706 ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)@英国ロイヤルオペラ・ライブシネマ(7月15日1:50−音だけ放送あり)

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7月14日の公演は、BBC-Radio3での音だけ放送もあります。(日本時間7月15日午前1時50分〜)
後ほどアーカイブでも聴けると思います

Radio-Broadcast on July 14 17:50-(GMT)
(JST:July 15 1:50-)

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(せっかく読み応えのあるコメントを頂いたので、この記事を編集&追記という形で感想をアップしますね)

結局横浜で観て、そのままお泊まりしました。
(終演は10時近かったので、そこから帰ると日付超えそうだったし、夜遅くの電車に乗り馴れていないので、安全のことも鑑みて)
チケットを買ったときは16番目だったんですが、もう少し埋まってて、30人くらいはいたかな・・と思います。一列に2、3人は座っていたかんじ。

全体的な印象を一言で表すと「悪趣味」に尽きます・・・

例の問題の場面は、2度目の上演から変更されたそうで、確かに映像で見るに耐える程度にソフトにはなってましたが、そこに至るまでに、延々と女性に嫌がらせをするだけでも充分に不愉快。
女性として、激しく嫌悪感を抱きました。

同じように嫌だったのは、コメント欄で斑猫さんが言及して下さった【子供の扱い方】
特に1幕のメルクタールの処刑の場面は、悪ふざけの度が過ぎると感じました。あれこそ児童虐待とかで問題にならなかったのか・・とも思いました。
それ以降の場面でもやたらと子供に銃を持たせたり、ピストルや自動小銃も必要以上に使い過ぎ。残虐さを小物とエキセントリックな行動に頼ることでしか表現できない稚拙さも感じます。

暴君やその腰巾着のような手下に対する憎悪や嫌悪感を観客に植え付けさせるのが目的だとすれば、私はまんまとその術中にはまったと言えるでしょう。もっと目を背けたくなるような残虐行為が世界のあちこちで行われていることも、一般常識として理解しているつもりです。

けど。
風刺のお芝居や演劇ならともかく、オペラにおいて(それが元々描かれてるとは言い難い作品において)そういうことを再現して見せて何の利益があるの?観客に嫌な気持ちを残させて帰宅させることが目的?

オペラを見たり聴いたりする時に、いつだって夢物語の中に連れて行って欲しい・・・とは言いません。前衛演出に傾倒した時期もありましたし、たまにはウィットに富んだ、刺激的な解釈も欲しいけど、
今回のような嫌悪感と後味の悪さしか残らないような舞台ばかりが続くとすれば、もう劇場に足を運ぶのはやめた方がいいのかも・・とさえ思いました。音楽だけを楽しみたいのならば、歌手の表現と解釈をストレートに味わえる演奏会形式やCDだけで充分。

そうは言っても、人間の声には抗し難い魅力があるわけで、声の重なり合いが理に叶った舞台と相まった時の美しさは、何者にも代え難い魅力があるのは動かし難い事実。
そして、こういう理不尽な舞台に接した時に色々と言いたくなるのも、楽しみの一つであったりするのですから。

この作品、通して聴いたのはライブシネマの数日前に数回程度、リブレットも一度もなぞる時間もなく、とりあえず音楽のアウトラインだけはなんとか掴んだ状態で臨みました。
なので、日本語で字幕がついたこと、指揮者パッパーノの解説等が途中で入ったことは、これまでの私の予備知識不足を補う為には、とても役に立ちました。

字幕付きで見て初めてわかったこと等を含めて、いくつか、印象に残ったことを・・
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【初めて気がついたこと】
マティルデとアルノルドの出会いは雪崩の時・・というのは、実際にそういう場面があるわけではなく、アルノルドの歌で示される。

【軸は「父と息子の確執→氷塊→ともに成長」・・なの?】
アルノルドとメルクタールは確執を抱えたまま父が非業の死を遂げ、その父の死を乗り越えられないまま、女か祖国かを友人たちに迫られて戦いへ赴く。
テルとジェミだって、もう少しお互い年を取ればメルクタール親子のような確執を抱える可能性は充分あり得るよね。

【スイス独立運動=テル自身の成長?】
かな〜〜?とも思ったり。インタビューにもありましたけど、テルって自分自身が望んで独立運動の主になったわけじゃないし。そういう弱い面が多分に出ていたような。

【アルノルドとマティルデの恋愛エピソードって、感情移入しづらい^^;】
いち農民の青年が、雪崩で助けたのがたまたま敵国の王女で、お互いに一目惚れ・・なんて、そもそも「あり得な〜〜〜いっ!」っていう設定じゃないですか?
お互い歌が長い割には、無い物ねだりに終始してぜんぜん解決に至ってないし、最後もどうなったのかいまいちわからない。
(身分違いの恋に立ちはだかる壁こそオペラにおける恋愛の醍醐味だと言われればそれまでなんだけど、なんか腑に落ちなかったワ)

【登場人物もやたら多いし・・】
「父と子の成長物語」を軸に暴君からの祖国解放、おまけにそれに絡むラブストーリーまで盛り込むから、却って散漫になって、収まりが悪い気が。

【ホームドラマにも振れ過ぎ】
コメント欄でBasilioさんが触れていらっしゃいますが、ジェミの扱いが大きいと私も思いました。で、テルとジェミとお母さんが絡むところは、やたらホームドラマ風だったのも鼻につきました。
特に3幕でテルがゲスレルに捕えられ「お母さんのところに行きなさい」というところで、その場にいるはずのないお母さんが、舞台の横でテーブルの上のものをひっくり返すのは、説明的過ぎません?

【2幕フィナーレの男どもの決起場面】
脱ぐなとは言いませんが、人数が多すぎます!それに、なんで血をあんなにベタベタ身体に塗りまくるの〜?美しくないわ。

【マント男=伝説上のテルは邪魔よ!】
も〜〜この手の示唆的な人物が出てきて舞台をチョロチョロする手法、いい加減にして欲しいです。あれでは実際のテルに意思決定力がないようにも見えてしまいます・・

【結局「勧善懲悪」じゃん】
「いろいろあったけど、最後はめでたしめでたし自由バンザイ」って・・なんか「フィデリオ」みたいじゃない?
悪者はやっつけられて善人が勝利する・・つまり勧善懲悪じゃん。この手の御都合主義的なめでたしめでたし・・・があまり好きじゃないのよねえ・・
(私がバロックとか、古い時代のベルカントオペラが苦手な理由は、台本自体が苦手なせいもあります)

【そして「盛り過ぎ」じゃん】
登場人物は多いわ、エピソードは多い・・雄弁な音楽だけでも、その盛り具合は窺い知れるのに、舞台がいちいち説明的になると、情報過多で疲れる。。。盛り過ぎ。

【ヴァルテルって!】
2幕途中でいきなりテルと共に現れ、スイス愛をかっこよく歌い上げるヴァルテル…
勇ましく決起を促した割には、みんなが闘ったり虐げられている間、貴方一体何処で何をしてたの〜?と激しくツッコミたい
次に出てくるときはもうゲスレルも死んだ後で、都合良く自由バンザイを歌い上げてるしさ(笑)
真面目で融通が利かなそうな、堅物っぽさが彼のキャラにぴったりで、クスクス笑いをこらえきれませんでした。
(衣装も狩人風とかじゃなく、ジャケットだし・・・っていうか、まるっきり「素」だよ・・;まさか、衣装は手持ちの自分の服ってわけじゃないんでしょうね?)

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というわけで、演出にはおおいに不満ありで、演出だけなら★はゼロどころかマイナスにしたいぐらいですが(^^;
批評や大方のご意見同様に、歌手陣は良い◎と思います。

ジェラルド・フィンリーはグラインドボーンの映像「マイスタージンガー」でのザックスはちょっとピンと来なかったんですが、ナクソス経由で予習に使ったパッパーノ盤でも「おっ?!」と耳が立ち・・・
映像を伴うとより一層説得力があります。いい意味で野性的な容貌も、この役にピッタリ。ヴィノグラードフとの声の相性もとても良く、Trioはまとまっていたと思います。

ジョン・オズボーンは、2012年にサンディエゴでの「理髪師」でヴィノグラードフと共演していて、その時も結構好きなタイプのテナーだな、と思ったんですけど、私としては彼がアルノルドで良かったと思います。(もともとロッシーニ歌唱云々に疎いので、声と歌い方が苦手でなければOK)
幕間に流れたインタビューも興味深かったです。

マリン・ビストレムは、声はいいんですが(上にも書きましたけど)
マティルデとアルノルドのエピソードにどうにも感情移入しづらく(しかもアリアも長いし)
北欧の歌手さんにありがちですが、ちょっと演技過剰じゃないかな?とも感じました。(初日のカテコでのガッツポーズにも・・;もう少し慎みみたいなものが欲しい;;)

で、ヴァルテル=アレクサンドル・ヴィノグラードフは・・
うんまあ、出番少ない割には皆様に誉めて頂いて恐縮です(^^;
最初、声がちょっと掠れてたのでドキッとしましたけど、徐々に乗ってきて。良かったんじゃないでしょうか。

実は私、あらすじを読んでいる時には、あらすじに殆ど現れないヴァルテルよりも、ゲスレルを歌ってくれればいいのに・・などと思っていたんですが(両方ともバスの役)
「今まで見たオペラの中でも最も極悪非道で最低のキャラかも。大っ嫌いだ、あんなヤツψ(`∇´)ψ」
と直後には思ったぐらいの嫌なヤツなんて、歌わないで正解!!という、私の個人的嗜好もありますけど、
ある意味ゲスレルの方が簡単・・というか、魅力的な旋律もないし、オーヴァーに演劇的に表現できればOKで、あまり歌唱力自体は問われないんじゃないかしら?とも思いました。

ヴァルテルは、あらすじにも現れにくい、キャラの立ちにくい役だけれども、過去の名バスも手がけているのは、歌の表現力だけで存在感を提示する力量が問われる役だからかもな・・とも思いました。なんせ、あんなに堅物な役なんですもの。

でもこういうのはお手の物だし、特に今回の演出におけるゲスレルの残忍さは、頑張っても彼には出せない。彼の歌のスタイルがそれを物語っていると思います。
これは、ゲスレルをニコラ・クルジャル(主要メンバー唯一のフランス語ネイティブシンガーとのこと)が歌い、堅物 → 高潔なヴァルテルをヴィノグラードフが歌ったのは、理に叶った配役だったと思うわけです。

脱ぎ場面はまあ・・・事前に伺って期待度は上がって楽しみではあったんですが、
本音を言うと・・サプライズで見たかったかも。すみません。

もっとズギューン!ってなるかと思ってて、予期したときめきは起こらなかったけど。
(あまり映らなかったしね・・あの場面、ジェミの一人妄想チャンバラなんぞ映してないで、もっと彼を!と思ったのはナイショw)

これだけい〜ろいろ、考えさせられたのは、ひとえに彼が出ていたからであって。
そういう点からも、私があまりなじみのない演目で、ライブシネマにかかったものに出てくれたことに感謝しています。
とにかく見てみないと、批判も弁護もできませんからね。

残りの舞台も頑張ってね!!!
7月14日の公演は、BBC-Radio3での音だけ放送もあります。(日本時間7月15日午前1時〜)
こちらはアーカイブで聴けそうですね

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2015年7月6日 英国ロイヤル・オペラ ライブシネマ@横浜ブルグ13

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:ダミアーノ・ミキエレット

ウィリアム・テル(スイスの愛国者):ジェラルド・フィンリー
エドヴィージュ(テルの妻):エンケレイダ・シュコサ
ジェミ(テルの息子):ソフィア・フォミーナ
アルノルド・メルクタール(スイスの愛国者):ジョン・オズボーン
メルクタール(アルノルドの父):エリック・ハーフヴァーソン
ルートルド(羊飼い):サミュエル・デール・ジョンソン
リュオディ(漁師):エネア・スカラ
ロドルフ(ゲスレルの射手隊長):マイケル・コルビン
狩人:マイケル・ラシター
マティルデ(ハプスブルグ家の皇女):マリン・ビストレム
ヴァルテル・フュリュスト(スイスの愛国者):アレクサンダー・ヴィノグラードフ
ゲスレル(シュヴィッツとウーリ州総督):ニコラ・クルジャル

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