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ドン・カルロ ー 俯瞰するオペラ(映像配信のご案内@コロン劇場)

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本題の前に。
6月末に脳腫瘍罹患を発表し、療養宣言をしたディミトリー・ホロストフスキー氏ですが、
9月25日のMetでのトロヴァトーレで、見事に舞台復帰を果たしたとのことです。おめでとうございます!
詳細はもっちろん、娑羅さんのところで。インタビューも必読です!
(明日30日朝8:25〜ラジオ放送あります。コロン劇場の「ドン・カルロ」映像配信と思いっきり被ってますが^^;)

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さて本題。
目下、日本から最も遠い(かもしれない)オペラハウス、アルゼンチンはブエノスアイレス、テアトロ・コロン(コロン劇場)にて「ドン・カルロ」が上演されております。

フィリッポ2世を(初めて)歌って(おかげさまで)好評を博している我がごヒイキさん、アレクサンドル・ヴィノグラードフのロールデビューが気になって気になって、ブエノスアイレスまで行こうかと画策していたけども、諸事情で取りやめ → やさぐれていたところに、音声と映像の両方の配信があるとのことで、俄然元気の出た私。(すみませんね、その程度の女です^^;)

ええ、この宣伝の為にツイッターにも復帰したんですが、
おかげさまでたくさんの方に関心を持ってもらえて、先だって放送された9月23日上演の時にはたくさんの方から祝辞?を頂きました。本当にありがとうございます。

実は私も、ヴィノグラードフがあんなに素晴らしいフィリッポを歌うとは予想しておらず(←ファンの言い草かねw)
いい意味で期待を裏切られ,
しかたないので惚れ直しました・・(///▽///

日本時間の明日(30日・午前8時〜)はコロン劇場からの映像配信があります。コロン劇場では最近になって映像配信を始めたとのことで、
・どのぐらいの安定度なのか?
・日本からアクセスブロックがかからないかしら・・とか、
いろいろ心配もありますけど、見られるかも・・と思うこと&たくさんの方に関心を持ってもらえて、幸せ&嬉しい限りです。ありがとうございます。

映像放送に先立って、音だけのファースト・インプレッションをどうしても残しておきたくて、クドクド書きます(笑)

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史実、またシラーの戯曲での扱いはともかく、オペラとしての「ドン・カルロ」は
主要登場人物それぞれに魅力があり、それぞれが黒い部分も合わせ持っている・・どちらかというとドイツオペラ寄りの嗜好の方でも、この作品だけは別・・とおっしゃる方も多いのは、その多面性とバランスの良さに依るものかもしれません。
「一人にフォーカスするのではなく、全体を俯瞰する楽しみ」が味わえる・・そんな作品だと思っています。

と言っておきながら、これから長々とフィリッポのことを語るのもなんなのですが、
かつて某オペラの解説書に「この作品は【ドン・カルロ】ではなく【フィリッポの憂鬱】とかにするべき・・云々とかいう文言を見たことがあって、え〜〜そりゃ違うでしょ!と(バス歌手のファンのくせに^^;)思っている私。

だって、フィリッポって矛盾は多いし突っ込みどころ満載じゃないですか。

・息子は言うこときかないし
・嫁からも愛されてないし
・大審問官には頭が上がらないし
・国内情勢不安定、政治的にも危うい状況 ← 異端審問の場面を見るにつけ「あんまり民衆から支持されてないよね・・」と思うわけ

・・・・・このキャラのどこが「立派な人物」なのよー?と・・・

出てきた時から嫁をいじめるし、政治的な匂いをプンプンさせてるし
異端審問の場面では、自分のために剣を抜いてくれたのはロドリーゴただ一人だけだし、で、あの場面、火あぶりだのなんだの・・で、生々しい場面の後、
いきなり(幕が変わって休憩を挟むとはいえ)「Ella giammai..(彼女は私を愛していない・・」とか急に歌い出すし^^;

その後も大審問官に罵倒されるし、エリザベッタからも反抗されるし(んで逆ギレするし^^;)
この後はまた、為政者としての立場での登場で・・
あのアリアだけがちょっと異質・・というか、あれがある故に複雑な役・・になるのでしょうね。

あれがなければ「ルイザ・ミラー」のヴァルター伯爵(父子対立という点ではフィリッポ父子に通じるところもあるけど、大義名分に拘って徹頭徹尾冷徹だし)や
じーさん(笑)のくせに、若い人たちと張り合って権力に任せて女性に執着する(でも負けるw)「エルナーニ」のシルヴァと同じぐらいの役回り(平たく言えばただの嫌なオヤジ^^;)に成り下がる気がします。

しかーし!
あのアリア(フィリッポの本音・・というか、弱さ、心情吐露)がある故の複雑な役・・ということを、すんなり納得させてくれるフィリッポがなかなかいないのが実情で・・

つまり、あのアリアを仰々しく「俺の素晴らしいバス声を聴けw」と、ただ感情に任せて歌うだけでは、フィリッポの多面的で矛盾を孕んだ性格は反映されないと思うんです。
(また、旋律が美しいからつい歌っちゃうんだろうな〜〜とも思う。。。)

で、私がヴィノグラードフのフィリッポを聴いてビックリしたのは

・ヴァルター伯爵やシルヴァを歌った時のような、観るひとにたいしてある種のこっ恥ずかしさ(悪人に見せようと頑張ってるけど、若さと人柄の良さが否めないね・・的な)を与えなかった!
(映像見たら考えが変わるかも・笑)

・最高音(大審問官とのやりとりの後のアレ)から低音まで、ほぼムラなく、無理なく鳴らしてる!もともと音域は広い(だからバリトンでも高音がきっついひとがいる第九のバスパートも無理なく歌っちゃう)と思ってたけど、これで確信した

・言葉の間合い(無音の「間」みたいなもの)の取り方が絶妙
(ロドリーゴに言う”Non Sembre!”とか、あんなにはっきり聴こえたのは初めて・・←いままでまともに聴いてなかったとも言えよう)

・全体を通して聴くと、厳しさや激しさの方が勝ってるし、これならまだ肉体的にも枯れてないフィリッポだね・・
(覇気りんりんって感じじゃないんだけど、エリザベッタと閨を共にできないことからエボリにちょっかい出して、エボリが誘惑に逆らえなかったと言い訳するんだから、
男盛りな男としての魅力を感じさせた方が面白い・・というか、それこそヴァルター伯爵とかシルヴァみたいになっちゃったらちょっとね〜〜みたいな^^;)

・なんだけど!
アリアでは一転、しっとり、しみじみ・・から始まって、後半にピークを持っていく感じで。

そう!そーなの!
こうやって歌ってくれると、腑に落ちるのよ、キャラクターとしてのフィリッポの矛盾点とか、心の痛みとかね。
激しいだけじゃダメ、仰々しく大上段に構えてもダメ、ずーっと怒ってるだけみたいでもダメ、こういう色合いつけてくれないと。品格もあるし。
それで号泣してしまった・・んですけど、ね。

他のキャストについても簡単に触れておきます。
エリザベッタを歌っているタマール・イヴェーリは私が大好きなソプラノで、ヴィノグラードフとの共演を心待ちにしていたんですが、一聴して「え?いまエボリ?エリザベッタ?」と混乱するほど、かつての初々しい澄んだ響きが重くなってしまっていたことにショックを受けたんですが
何度か録音を聴き直してみると、おばさん声になってしまっても、細やかな表現力は健在・・で、カルロから心情を訴えられ、退け、安堵してフィリッポが入ってくるところでの「はっ・・」というため息などにははっとさせられ、長年この役を歌ってきただけのことはあるな・・と思います。

エボリのウリア=モンゾンは、2012年にヴィノグラードフと「カルメン」で共演した時の印象があまり良くなくて、当初ヴィオレッタ・ウルマーナがキャストされていたところから変更された時にはがっかりしたんですが
カルメンの時よりもうんと良かった。なんといっても姿が美しいですから、映像で見るとまた違う印象になりそうです。

男性陣での嬉しいびっくりは、ロドリーゴを歌っているファビアン・ベロス。写真で見ると・・;とか思ってたけど、
時々はっとさせられるほどいい声をしているんですが、「ん?」と思う時もあったり、ちょっとムラがあるんですが、十分満足。地元の歌手ということで、批評でもかなり盛ってありますけど^^;納得です。

問題は表題役のカルロ、ホセ・ブロス。「ええ?今時こんなすっぽ抜けた声で古めかしい表現するの(@。@;」とびっくり、残念ながら私の好みからは大きく外れるのですが・・映像ではもう少し私にいい印象を与えて欲しいです(←えらそう)

という感じのファースト・インプレッッション。もし興味があって、お時間の都合のつく方は是非、30日朝8:00〜のコロン劇場からの中継放送を一緒に楽しみましょ!

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